間違いやすい給与計算について
茨城・いわきを中心に、企業の労務管理を支えるあすか社会保険労務士法人です。今回は、給与計算について解説を行います。どのように給与を計算すれば良いか悩んでいる経営者や担当者の方は、是非参考にしてください。
目次
総支給額の計算
従業員に支払うべき賃金は、まず総支給額を計算することからスタートします。総支給額から保険料などの控除額を差し引くことで、最終的に従業員が手にする手取り額の計算が可能です。
労働時間の把握
総支給額の計算に当たっては、まずタイムカードや出勤簿などから従業員の総労働時間を正確に把握することが必要です。法定労働時間を超える残業や、深夜業、休日出勤などがあった場合には、基本給の他に割増賃金の支払いが必要となります。そのため、労働時間は、正確に把握しなければなりません。
1時間あたりの賃金
割増賃金の計算には、1時間当たりの賃金が必要となりますが、1時間当たりの賃金の計算には、月平均所定労働時間の計算が必要です。月平均所定労働時間は次の式で計算ができます。
・月平均所定労働時間={ (365日-年間所定休日数) × 1日の所定労働時間数 } ÷ 12
月平均所定労働時間が計算できたら、次の式で1時間当たりの賃金を計算しましょう。
・1時間当たりの賃金=月給÷月平均所定労働時間
なお、月給には役職手当や資格手当などは含みますが、次の額は計算の基礎から除外されます。
- ・家族手当
- ・ 通勤手当
- ・ 別居手当
- ・ 子女教育手当
- ・ 住宅手当
- ・ 臨時に支払われた賃金(見舞金など)
- ・ 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(ボーナスなど)
労働時間に該当する時間
労働時間に該当する具体的な例としては、以下のような時間が挙げられます。
- ・自由利用が保証されていない休憩時間や出張旅行時間
- ・着用を義務付けられている制服等への着替えに要する時間
- ・事前の準備や事後の清掃等に要する時間
- ・待機時間(手待時間)
- ・受講義務のある教育訓練時間
- ・安全衛生教育時間
- ・特殊健康診断の受診時間(石綿や鉛など有害物質を扱う労働者等が対象)
業務を行ううえで、必要となる教育訓練や健康診断に要する時間、労働者の自由に利用できない時間などが、労働時間となります。また、法律上の義務はなくとも、会社の指示により参加させた研修会やセミナーに要した時間があれば、当該時間も労働時間に該当します。
労働時間に該当しない時間
労働時間とならない時間は、以下のような例が挙げられます。
- ・自由利用可能な休憩時間や出張旅行時間
- ・受講義務のない教育訓練時間
- ・参加義務のない会議時間
- ・一般健康診断の受診時間
- ・面接指導や特定保健指導を受ける時間
自由利用が可能であれば、出張旅行時間は労働時間とはなりません。ただし、移動中に業務を行うように指示されていたのであれば、当該時間は労働時間として扱われます。会社には、労働安全衛生法によって、定期健康診断を行う義務がありますが、当該健康診断に要した時間は労働時間として扱う必要はないとされています。
また、終業後に社内で行われる自由参加のQCサークル活動などの時間も労働時間とはなりません。ただし、サークル活動への参加を会社が強制していれば、労働時間となるため、注意が必要です。
割増賃金率
割増賃金率は次の通りです。
対象となる労働時間 | 割増率 | |
法定時間外労働 | 月60時間以下 | 25% |
月60時間超
(中小企業除く) |
50% | |
休日労働 | 35% | |
深夜業 | 25% | |
時間外+深夜業 | 月60時間以下 | 50% |
月60時間超(
中小企業除く) |
75% | |
休日労働+深夜業 | 60% |
割増賃金は、次のように計算できます。
・割増賃金 = 時間外労働時間数 × 1時間あたりの賃金 × 割増率
なお、月60時間を超える時間外労働に対する中小企業の猶予措置は、2023年3月31日までのため、注意してください。
手当の計算
会社の設けた賃金規程などに基づいて、手当の額を計算します。手当の種類は会社によって異なりますが、支給すると定められた手当は、しっかりと総支給額に含めるようにしましょう。
控除額の計算
割増賃金や手当の額を含めた総支給額の計算ができたら、そこから控除する額の計算が必要となります。総支給額から控除額を差し引いた額が、従業員の手元に手取りとして支払われることになります。
遅刻や欠勤・早退があった場合
就業規則に定めがあれば、欠勤や遅刻・早退分を総支給額から控除することが可能です。欠勤の場合における控除額の計算には、月平均所定労働日数が必要となり、以下の式で計算できます。
・月平均所定労働日数=(365日-年間所定休日日数)÷12
月平均所定労働日数が計算できたら、次の式を用いて欠勤控除額を計算します。
欠勤控除額=月給÷月平均所定労働日数×欠勤日数
遅刻や早退があった場合には、次の式を用いて控除額を計算します。
・遅刻・早退控除額=月給÷月平均所定労働時間×遅刻・早退の時間数
なお、割増賃金の場合と異なり、欠勤控除において賃金から控除される手当に法の規定はありません。そのため、手当を含めることも含めないことも自由ですが、後のトラブルを防ぐためにも控除する手当の種類などをしっかりと就業規則に定めておきましょう。
社会保険料の計算
総支給額からは、社会保険料も控除されます。控除される社会保険料は、健康保険料と厚生年金保険料、雇用保険料となります。労災保険料は、会社のみが負担するため、控除されません。
厚生年金保険料の計算式は、次の通りです。
・厚生年金保険料=標準報酬月額×18.3%÷2
厚生年金保険料は、労使が折半して負担するため、2で除することになります。この点は、健康保険料も同様で、計算式も料率が異なるだけです。
保険料料率は、都道府県によって異なるため、注意が必要です。また、従業員が40歳~64歳の場合は介護保険料の計算も必要となりますが、こちらも料率が異なるだけで、式は同様です。詳しい料率などは、全国健康保険協会のサイトでご確認ください。
参考:全国健康保険協会「令和5年度保険料額表」
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g7/cat330/sb3150/r05/r5ryougakuhyou3gatukara/
雇用保険料も労使双方が負担しますが、負担割合は均等ではありません。以下に計算式を示しますが、業種によって料率は異なるため、詳細は厚生労働省のサイトをご覧ください。
控除すべき雇用保険料=賃金の額×雇用保険料率×労働者負担割合
参考:厚生労働省「雇用保険料率について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000108634.html
また、雇用保険料の計算の基礎となる賃金の額には、原則支給された全てのものを含みますが、結婚祝金など一定の場合には賃金から控除されるため、注意してください。
参考:厚生労働省「保険料の対象となる賃金は」
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/hoken/kakikata/dl/koyou-07.pdf
源泉所得税・住民税
総支給額からは、源泉所得税や住民税も控除しなければなりません。源泉所得税は、源泉徴収税額表に基づいて計算されます。
参考:国税庁「令和5年分 源泉徴収税額表」
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/zeigakuhyo2022/02.htm
住民税は、自治体からの納付書で通知されます。通知された額を12で除すことで、毎月の控除額が計算可能です。
こんなときは
- ・「しっかりと労働時間が把握できているか不安」
- ・ 「この手当を割増賃金の基礎に含めていいのか自信がない」
- ・ 「欠勤控除の根拠となる就業規則はどう定めれば良いのか」
- ・ 「給与計算を誰かにチェックして貰いたい」
上記のような悩みを抱えている経営者や給与計算担当者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。給与は従業員の生活の基盤となる重要なものであるため、計算ミスは許されず、支払いにおけるトラブルも非常に多くなっています。
あすか社会保険労務士法人では、給与計算に関して専門的な知識を持ったスタッフが揃っております。悩みがあれば、是非お気軽にご相談ください。正しい賃金計算のアドバイスを行い、賃金トラブルを未然に防止するお手伝いをさせていただきます。
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